TOP家づくり物語職人の自邸

大工が、経験のすべてを注ぎ込んだ「わが家」

軒裏の板貼りの意匠は、下地材を使用した施主のこだわり

板金を施した黒の外壁に、軒裏や窓格子の木材が鮮やかに映えるYさんの新居。ナラのフローリングをはじめ、杉、ケヤキ、ヒノキなど、ふんだんに使われた良質のムク材と、材を生かす手仕事の確かさ、木肌の意匠の素晴らしさが印象的だ。実はご主人は大工。もちろん、この家も自分で手掛けたものだ。

 天井や床、格子などの凝った意匠も、すべてムク材から切り出して丹念に仕上げたという。「一見お金がかかっているように見えるところも、大工のメリットを生かして、いいものを安く使っている」のだそう。例えば、中庭に面する軒天井は下地材を活用してコストダウンしたが、その分手間暇は惜しまず、軒先を3段に。
「夫がこれまでの経験をすべて注ぎ込んで大切に造った家なので、私も喜びひとしおです」と、出産を間近に控えた奥様。ご夫婦そろって、「わが家」への愛着と、新しい家族への期待で幸せそのものというご様子だ。

そんなYさんが手放しでたたえるのが、「設計の力のすごさ」だと言う。「きなりの家の仕事を何軒もしてきて、設計の狙いやすばらしさは理解していたつもりでした。それでも、自分が施主になって、そして住んでみて、改めて真のすばらしさを目の当たりにして感動しました」と、目を輝かせて話す。

平屋+αで、のびのびとした視界と空間を実現

高窓と掃出窓を使用し、敷地条件の中で十分な採光と視界を確保

「歳を重ねた時に不自由ないように平屋を希望しました。しかし決して広いとは言えない敷地。どれだけ屋内の広さが確保できるか心配でした」と、振り返るYさん。「夫婦の生活に必要なものは1階に集約したので、平屋の便利さそのもの。一部2階建てとして子ども部屋にしたおかげで、LDKにダイナミックな吹き抜けが生まれました。さらに中庭に面して大きく開口をとり、物理的にも視覚的にも予想を上回る広さとなりました」。

 奥様は「壁と窓の位置が絶妙です。高窓は小さくても十分な採光を確保しているので、昼間電気をつけないで十分明るい。壁は、万一隣家が建て替えた場合も、2階からの視線を防ぐようになっているとのことです。敷地のメリットを最大限に引き出して、さらに将来を見据えた設計には、感謝しかありません」。
 リビング全体、テレビ、庭が見渡せるキッチンも大のお気に入り。「子どもが生まれたら、畳スペースに寝かせて、様子を見ながら家事ができるのがありがたいです」と、ほほ笑む。ご主人も「小上がりの畳コーナーは、多用途で便利です。腰かけたり、床に座って背もたれにしたり。その分フロアを広くすることもできましたが、畳コーナーを作って生活スタイルが広がった気がします」。

天井板は手間の掛かる縦貼りに

縦格子のキッチン背面収納

小上がりの畳間には書斎が併設

隣地を気にしない為の窓の設計

回遊式の生活動線で、家事負担を軽減

回遊出来る廊下の天井は、外部と同じ板貼りの静謐な印象

広さと同じくこだわったのは生活動線。「夫婦共働きで、二人とも時間が不規則な仕事。まもなく子ども生まれることもあり、家事の負担は極力減らしたいとお願いしました」と奥様。その願いにこたえて、生活動線は、キッチンから寝室、クローゼット、洗濯・乾燥室、洗面・浴室と、回遊式に。「特に、洗濯・乾燥室から、ハンガーのままクローゼットにしまうことができるのが便利。リアルな暮らしの提案がうれしいです」。

また、キッチン収納は、電子レンジをはじめとするキッチン用品はもちろん、リビングで使う細々としたものや掃除道具まで収納できるほど容量たっぷり。収納に隣り合わせて、壁と一体化したカウンターと棚、さらにタモとケヤキを組み合わせたダイニングテーブルも一つながりになるよう造り付けている。「リビングダイニングに余計なモノを置くことはありませんし、ダイニングカウンターによって、テーブルがより広く感じます。将来家族が増えたら、棚を増やしてもいいですね」と、可変性に優れているのもポイントだ。

 リビングへつながる一角に手洗いコーナーを設けたのは、「外から帰ったらすぐ手洗いできるように」という奥様の希望。「リビングからも見える位置にあるのでデザインにはこだわりました」と言うように、壁の白と木の色のなかで、ブルーグリーンの洗面ボールとタイルが、目を引くアクセントになっている。

パッシブエアコンシステムで、冬も夏も快適

冬は大きな空間でも床下から効率よく温め、夏も効率的に冷房可能

注目すべきは、きなりの家で初めて導入した全館空調、パッシブエアコンシステム。壁や床にパイプをめぐらせ、家中均一な暖気・冷気を送るしくみだ。「冷房もまかなえるので、床暖房より個別のエアコンを設置しない分コストが安いのがメリット。ナチュラルな暖かさで、真冬でも寒さ・冷たさを感じることがありません」と、妊娠中の奥様も快適に過ごしているそうだ。

屋内に壁がないのも、空気を効率的に循環させるため。壁はなくても、天井の高さに変化をつけたり、畳コーナーに飾り梁をあしらったりと、さりげないゾーニングで、のびのびと開放的な空間の居心地を高めている。
「本来、パッシブエアコンシステムはダクトスペースや通気口の計画が必要で、設計上の制約を増やしてしまうのですが、ダクトの存在を全く感じないし、広さも使い勝手もこれ以上ないと思う見事な設計です」と、感心することしきりのご主人。奥様も、「専門的なことはわかりませんが、住んでみると、私たちが欲しかった家はまさにこの家だと思いました。それだけ極めた設計なのだと思います」。

 そんなYさん、この家でさまざまな技法に挑戦したのだとか。「リビング天井や軒天井など、これからの仕事に生かせるかどうか、お客様の家ではできないことを実験的にやってみた」と、職人魂をうかがわせる。「これからも、日々手入れを施しながら、大切に暮らしていきたい」と話す笑顔が印象的だ。

木の意匠でまとめられたキッチン

多彩な天井デザインが特徴的

黒と木肌の印象的なデザイン

車庫の屋根にはガラスの明り取り