日なたのデッキ、日陰のテラス
南北の庭に憩う家 設計:石田博/施工:金光桂佑/大工:吉房泰彦
海外の赴任先で始まった家づくり
敷地は奥さまの実家の隣。目の前には田んぼののどかな景色が広がり、用水路沿いの細道を散歩する人が行き交う。

子どもの頃から慣れ親しんだそんな地で、Iさん夫婦が家づくりを思い立ったのは4年前のこと。
しかし、いくつか作り手を回って話を始めかけたその矢先、シンガポールへの海外赴任が決まったという。
土地の開発許可申請の都合で、帰国を待たず赴任先から遠隔でプランニングを進めることに。当初から第一候補だった「きなりの家」での建築を決めると、建築士は主不在の敷地を見に行って図面を作り、3次元プレゼンソフトとメールや電話でのやりとりを重ねてコミュニケーションを深めた。そして最終的には、一度も顔を合わすことなく郵便で契約書を交わした。

3年間の赴任を終えて帰国し、ようやく対面での細部の打ち合わせがスタート。
ご夫婦は遠慮なくざっくばらんに想いを伝え、それに対して建築士のほうもはっきりと意見を示したという。
「ときには考えが異なることもあったのですが、でも、プロの意見を信じてゆだねたところが、結果的にどれも予想を超えてすばらしく、よかったなと思うことばかりです」と、ご主人は感心した様子で語る。
低く構えた門型のファサードは周囲に馴染む高さとしながらも、存在感のある外観とした
やわらかな光を取り込む北テラス
柔らかい光を取り込むプライベートな北側テラスの庭
南だけでなく北側にも掃き出しの開口を設け、内外の一体感を演出する設計は、「きなりの家」らしさの象徴ともいうべき手法。
南にも北にものびやかに視界が開けたこの敷地においては、なおのことその魅力を活かさない手はない。そこで、ほぼ1階だけで生活を完結できる平屋に近いプランとし、南の大開口に加え、北側に贅沢なテラスが提案された。

ダイニング横の壁2面がガラス張りになり、そこから眺める北の庭は、光と影が入り混じって涼しげ。
室内の黒い大きなタイル床が、透明な壁を挟んでそのままテラスまで続き、内外を視覚的につなげる。板塀に囲まれた屋根付きのテラスはプライバシーが保たれ、セカンドリビングとして本当に「使える」ものとなっている。

「部屋でも収納でもない空間を作るって、普通に考えたらちょっともったいない気がしますよね。でも実際、このテラスと庭があることで、暮らしの豊かさのようなものは何倍にも増していると思います」と、ご夫婦そろって満足の表情を浮かべる。
仕上げを揃え、スッキリとした造りで内外の一体感を演出
洗濯乾燥室はWICに隣接させ、共働き世代の家事負担を軽減
使い易く清潔な洗面スペースはシンプルにスッキリと
南庭は緑と大きな景石が行き交う人の目を引く
おおらかに外へと開く南デッキ
対して南面は、4連のサッシから田んぼの風景をはるばると望む。
目の前の道に人通りがあるが、元々奥さまは「昔の家みたいに、窓や縁側越しに世間話のできるような感じがいいなと思っていたので」、目隠しは軽く植栽を施す程度にとどめてオープンに。当初プランになかったデッキも、Iさんの希望で設けられた。

内外のつながりを、無意識のうちにもっとも体感しているのは子どもたちなのだろう。お子さんも、遊びに来るお友だちも、デッキやテラスから家と庭を自由に出入りして駆け回っているという。
「庭にいてもお互いに目が届くから、子ども自身も安心して遊べるんでしょうね。この家になってから、子どもの泣き声を聞くことが本当に減ったんですよ」と、キッチンに立つ奥さまは目を細める。

共働きで忙しいご夫婦にとってももちろん、家事労働のストレスは大きく軽減したそう。
陽の入る南側に室内干しのできるランドリールームが設けられ、乾いた衣類は隣のWICにそのまま吊るして収納できる。キッチン背面などは扉付きの収納で生活感を隠してすっきり。その代わり、リビングの収納を一部だけオープン棚にして、家族の写真など気持ちのなごむものを飾れるようにした。
南デッキは子供が中へ外へと楽しそうに出入りする場であり、ご近所とのコミュニケーションの場でもある
ディテールの積み重ねが全体の美を生む
南北両サイドに光と風が抜ける。ダイニングは大判のタイル、リビングはチークとし、それぞれの良さが楽しめる
プランの過程では、希望をすべて盛り込むとやはり予算をオーバーしてしまったそう。そこから改めて予算の中に納めていく検討作業がおこなわれたが、「本当にうまく代替案を考えてくださいましたし、きちんとコストを掛けるべきところには掛けて中途半端にしないという点が明確だったので、まったく我慢した感じになりませんでした」。

一方、スタッフや職人の判断で、知らぬ間によりよく手を加えられていた箇所もあるのだとか。また、例えば材の継ぎ目できれいに木目が合わせてあるなど、言われないと気づかないような細部に、確実にひと手間が掛けられていることがわかる。
「美しい空間はディテールの積み重ねによって作られるものですからね。一部のコストダウンのために全体のバランスが崩れてしまうのは惜しいですから、こちらもできる限りのことをしたいと思うんですよ」と担当者は語る。

明るい庭には新緑が輝き、室内には静かな影。
ご夫婦は内外をぐるりと見回して、「本当にいい家」としみじみと言葉を漏らし、「こうして外を見ながら、家で過ごす時間が一番の贅沢ですね」と、満ち足りた笑顔を見せていた。


(取材ライター:吉田)
大きく開いた南窓が面積以上の拡がりをつくる
キッチン対面に飾り棚、家族の思い出の品が並ぶ
玄関収納は隠しながらも使い勝手の良い配置としている
2階の子供部屋には大容量の小屋裏収納を備える
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