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内庭を抱く平屋

繊細なディティールとダイナミックなプランから生まれる上質な空間

プライバシーの保たれた敷地の利点をいかして

深い軒と石張りの壁がもてなす玄関アプローチ

畑の脇の細い進入路を抜けた先に、一気にひらける旗竿状の敷地。
のどかな郊外の空を背景に、広いガレージに続く平屋の邸宅が、悠々と軒を伸ばして佇む。

暮らすのは、飾らない雰囲気のご夫婦と、かわいらしいワンちゃんが1匹。すぐ南にご主人の実家があり、この土地も、元は実家の農地だったものだという。長く賃貸住まいだったMさん夫婦が、満を持してここに自邸を建てるにあたり、望んだのは「ゆったり、広々としたシンプルな空間」とのことだった。

旗竿の「旗」部分は100坪ほどもあるが、「竿」は細く、その前の公道も狭いため、プランニングはまず車の出入りの方法から検討された。車の転回に必要なスペースを測るため、更地に杭を打って建物を仮で示し、実際に車を動かしてシュミレーションしたという。
実家と接する南は、境界に高い生垣が植わり、人目を気にせず開放的な屋外空間をつくることができる。加えて、東面は遮るものなく眺望が広がる。こうした敷地条件を活かし、庭を南東に置いてL字に囲むプランが立てられた。

内外を一体に感じるのびやかな空間

南の開口と高天井による伸びやかなリビングダイニング

庭を囲む2面は、ほぼすべてがガラス張り。長い南面をもつリビングはもちろんのこと、家の顔となる玄関も、庭と一体のものとして設計されている。
上がり框に向かうと、正面の窓から庭の向こうの遠景まではるばると視線が抜け、思わず息をのむ。そして、明るい庭から屋内に視線を移せば、無節のヒノキ材が施された玄関ホールは静かな影をたたえ、凛とした上質感を漂わせる。

LDKはまさにMさんがイメージした通りの大空間。勾配天井の端から端まで、細い化粧梁がピンストライプのように通され、長辺ののびやかさを強調する。南面は天井近くまで6面もの大きなガラスを連ね、緑の庭と空とをダイナミックに室内に取り込む。
自然光の満ちる昼間とは一転、夜は照明を抑え、落ち着いた雰囲気を演出。また、北側にも小さな坪庭を設け、南とは違った趣をもたらしている。

のびのびとした空間を楽しんでいるのはご夫婦だけではないようで、ご主人は愛犬を抱きながら「この子が一番喜んでいるかもしれませんね」とにっこり。奥さまは「犬が庭を駆け回って遊んでいるのを、家の中から眺めているのが一番癒される時間です」と微笑む。

無垢の桧床と中庭を臨む開口が客人を迎える

北側に坪庭を備え、明るいキッチンとなった

キッチン裏は大容量のバックヤード収納

異形タイルで遊び心を取り入れつつ飽きのこないデザインに

機能的かつ生活感を見せない動線の工夫

キッチンのデザインと合わせて作った背面収納は機能性も兼ね備える

キッチンや水回り、収納といったユーティリティの部分は、機能性を充分に考慮しながらも、できるだけ生活感を感じさせないよう工夫が凝らされている。
リビング内に設けられた収納は、扉の枠も取っ手もなくして壁と同化させており、言われない限り存在に気づかないほど。キッチンとお揃いの背面収納は既製品でまかなうこともできたが、やはり天井までぴったりのサイズに納めて壁のように見せるため、メーカーから特別に面材を取り寄せてオリジナルで造作したという。

さらに、キッチンから背面収納の後ろへぐるりと回れる回廊動線が作られており、バックヤードとして多くの収納が設けてある。そこから広大なサニタリー、物干し場、WIC、寝室へと通り抜けられる設計は、洗濯の動線もとてもスムーズ。
「図面だけではあまりイメージできていなかったのですが、実際に生活してみると『ああ、なるほど』って。日常の家事動作まで、とてもよく考えられていることがわかりました」と奥さまは笑顔で語る。

真摯なやりとりから満足が生まれる

プライベートな南庭の開放感を贅沢に室内へ取り込む

きなりの家づくりに深く信頼を寄せ、おおまかな要望以外はほぼお任せだったというMさんだが、それでもいくつかはやりとりを重ねるところもあったという。
「例えば南側の高窓。私は掃除が行き届かないのではという心配から、当初はなくてもいいと思っていたんです」と奥さまは話す。一方で設計側としては、高窓から空を見せることによる視線の抜け感を、空間の重要な要素として考えていた。
こうしたシーンで双方の着地点を探る役割を果たすのが、施主と設計士の橋渡しをするもう一人の設計士(以下、担当者)の存在。この高窓の件に関しては奥さまの気持ちに寄り添いながらも、窓があることの利点を丁寧に説明し、納得の方向へ導いていった。もちろん逆に、Mさんの意向を汲み取り、希望に沿う形に変更した点も。「ここまで満足のいく住まいができたのは、担当者さんのおかげです」とご夫婦そろって満足の表情を見せる。

担当者からは「自由に提案させて頂ける状況だったからこそ、『やりすぎない』ことを心掛けました」と話す。
細部まで手を尽くした上質な住まいでありながら、木部をナチュラルな色味で統一したことで、全体の印象は軽やか。それはそのままご夫婦の人柄を映しているようで、住まいと暮らしとがしっくりと心地よくなじんでいた。


(取材ライター:吉田)

リビングダイニングへと繋がる和室

個室は色味を変えて、趣味のお部屋に

寝室も戸を引き込めばリビングと壁一枚に繋がり、奥行きを演出する

ゆとりのパウダールームはこだわりのタイル仕上