新しい快適さの中で、古さを愉しむ
感性も住み継ぐ家 設計:岩埼瀬里香/施工:時光和貴/大工:中西正・河田修
山に囲まれた築60年の祖父母の家
Oさんにとって、祖父母の家は子ども時代の楽しい記憶が詰まった場所。「森や崖に囲まれていて隠れ家みたい。離れや半地下があったりするのもおもしろくて、小さい頃からこの家がとても好きだったんです」と話す。

祖父母が高齢となり、家をこの先どうするかという話が出ると、Oさんは「だったら自分が」と、受け継ぐことを決めたという。広い家だがやはり設備も間取りも古いため、いつかはリフォームをと思いながら暮らすこと15年。その間には3人のお子さんたちも生まれ、ずいぶん大きくなった。いろいろと潮時が来て昨年、ついに改修を決めたというのが、今に至るいきさつだ。

リフォームに際しては、何社かをあたって検討したが、どこからも建て替えを勧められたそう。「自分たちにとっては思い入れのある家ですから、そう言われるとよけいに『壊したくない』という気持ちが強くなって(笑)。そんな中で『きなり』さんは、うちを見るなり『これは素晴らしい』とまったく違う反応をしてくれて、うれしかったですね」と奥さまは話す。
緑が生活の一部に溶け込む和室
古い匠の技を大切に残して
古い価値と家主のこだわりをできる限り残した茶室
山の斜面に沿って建つ築60年の母屋と、渡り廊下でつながった築40年ほどの離れ。敷地内には大きな高低差があり、表から見た1階が、裏手から見るとほぼ2階の高さになる。離れの方は、オーバーハングした2面に大きな窓が入り、抜け感のあるモダンな印象。母屋には小さなにじり口をもつ2畳の茶室が設けられ、お祖父さまはそこで茶を点てていたという。「その時代に、粋な趣味をもつ人でしたよね。そんな祖父母が相当に凝って建てた家であることは確かです」とOさんは話す。

茶室は実は、千利休が手がけたとされる現存最古の茶室「待庵」を正確に模したもの。窓の位置や形、各部の寸法まで、お祖父さまが測って作らせたものだという。小舞(土壁の下地となる竹格子)を見せた下地窓などは、職人いわく「今同じものを作ろうと思っても、もう誰も作れんよ」。この茶室をできる限りそのままの姿で残すことはOさんも職人も迷いがなく、土壁の塗り替え、小舞の補修、畳の敷き替えなど最低限の手入れをおこなった。
モダンな印象を与える縦格子が外観のアクセントに
そのままの姿で残した匠の技による竹木舞
ファサードに一体感を出す石造りの門柱
間取りを変え、空間全体に繋がりを持たせたLDK
見違えるように広く心地よい空間に
リフォーム前の住まいについて「なんとか工夫して生活していましたけど、なにをするにも大変でしたよね」と振り返る奥さま。母屋の南側は使われていない三間続きの和室で占められ、台所は北側、リビング的な居室は離れにあった。暑さ寒さが厳しく、エアコンのある部屋が限られていたため、「家はとても広いのに、実際に使える空間はわずかという状態でした」。そこでまずは家全体の床と壁にきっちりと断熱を施し、サッシをペアガラスに一新。これで室内の環境は格段に快適になった。細かく仕切られていた南の和室は、心地よい床暖房入りのフローリングに。ダイニングとの仕切り壁も撤去し、見通しのよいひとつながりのLDKとした。

北側にはもともと小さな窓しかなかったが、そこから山の緑がきれいに見え、お祖母さまも好んでその風景を眺めていたという。これを知った設計士の提案で大きく窓が広げられ、窓辺にはお子さんたちが並んで勉強のできるカウンターが設けられた。リビングには、Oさんの希望で東西の壁全体に書棚を造作。憧れていたフランク・ロイド・ライトの照明を入れると、見違えるように洗練された、開放的かつ落ち着きのある空間へと生まれ変わった。
本とインテリアが調和するようデザインされた壁一面の書棚
どの窓にもみずみずしい緑の木々
客人を出迎える坪庭は、視線に抜けを作る
家の顔である玄関は、床板を上質な無節のヒノキ材に張り替え、坪庭の見える窓を設けて、明るく清々しい空間に。他も全体的に間取りを整理し、サニタリーやクローゼット、お子さんのスペースなどを適宜配置。1階全体が大きな回廊動線になり、家じゅうのびのびと使って生活できるようになった。

うっそうとしていた外回りも庭師の手によってさっぱりと整えられ、斜面には石段が築かれた。
周囲の家とは高低差がある上、豊かな木々が目隠しになって外の視線はほとんど気にならない。どこを見ても大きな窓いっぱいに緑の梢や山が映り、四季のうつろいを感じられる。

「当初はリフォームといってもどれほどのことが可能なのかわかりませんでしたが、始まってみると、こんなことまでできるのかと驚きました」とOさん。それだけにどこまで手を入れるかは悩みどころだったが、設計士や職人たちとその都度相談して決め、また一方では信頼して任せた部分も多かったという。「現場を見に行くと職人さんが『ここはこんなふうにしといたから』と言って、いろいろと手間をかけて感じよくしてくれているんですよ。工事が進むごとに、どんどん素敵に生まれ変わっていくのは本当に見事でしたね」。新旧の住み手の感性が融合し、さらに次代へと、無二の価値を深めていく。
懐かしい情景を望む窓によって、住み手の思い出を感じる家に
空間が限られる洗面所は、壁収納で縦のスペースを有効活用
美しい緑と自然石によるアプローチ
生活動線の中に設けられた収納スペース
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