敷地の高低差を設計に落とし込む
道路からの視線に配慮しながらファサードを作り込む
入り組んだ細い道に沿って家々が建ち並ぶ、里山のふもとの住宅地。
敷地は進入路の狭い山ぎわの傾斜地で、さらに道路と敷地の間には1mほどの高低差がある。通常であれば平地に土地を形質変更する造成計画が提案される敷地条件だったが、あえて土地の形状を活かして建築することによって、結果的に「なにもかも、すべてに満足のいく住まいとなりました」とMさまは話す。
敷地に高低差がある場合、高い部分に合わせて整地し、外構で階段やスロープをつけるか、もしくは高い部分を道路面まで掘り下げて整地する方法が考えられる。ところが設計士は、意外な提案をしてきたという。
「いずれの方法にしても整地にかなりのコストがかかってしまい、なんだか惜しい気がしますよね。同じお金を使うなら、建物をよりよくするために使うほうが気持ち的にワクワクしませんか?」。
もとの地形をできるだけ活かして整地のコストを抑え、その代わりに建物を、オリジナリティあふれる豊かなものに。高低差を建物の内部に取り込んだ、4層のスキップフロアのプランが作られた。
日常に楽しい変化をもたらす多層構造
空間を緩やかに繋げることでそれぞれのスペースが完全に孤立せず程よい距離感になる
道路から地続きの玄関を入ったところからすでに、ハッと心を奪われる静謐な空気感。奥には、数段の小さな階段が続く。上がっていくと、目線の上に明るいフロアが見えてくる。
上がった先は、高く吹き抜けた開放的な大空間。フロアはさらに2層になっていて、下側がダイニング、玄関の上にあたる中2階がリビングとなっている。
南面は高い天井の際に大きな窓が入り、どこにいても明るい光が目に入ってくる。豊かな植栽が施された庭の先には高めの塀が築かれており、下の道路や周囲の家からの視線は完全にカットされている。
「カーテンを開け放して、緑を見ながら暮らしたいというイメージが、この土地で叶えられるとは思いませんでしたね。一番下の子どもがごはんを食べながら、『雲が動いてる!』と驚いたように教えてくれて、やっぱり空の見える家っていいなと思いました」とMさまは微笑む。
西側には水回りや収納がまとめられ、各室が扉でつながってぐるぐると回遊できる。
中2階のリビングからさらに上がった2階は、3人のお子さんたちの部屋。吹き抜け上の廊下から、階下と外の様子が一望できる。
ソファの色味と合わせたネイビーの壁紙
ふと目を向けた先にも緑が見える
多様な使い方ができるテラス
ダイニングから見える位置にご夫婦お気に入りのシダレモミジを配置
工芸品のような大工造作に魅せられて
適材適所の収納で物が無意識に整う
インテリアは上質な無垢材の質感と、ポイントに入れたネイビー色の壁が印象的。ダイニングテーブルは大きな無垢の一枚板で、板壁と一体に造り付けられている。テーブルの脚部分は、収納棚の機能をもたせながらも、キッチンと同じ突板でデザインされており、四方に足の無い家族五人が机の脚を気にせずテーブルにつけるよう、中心のみに足がある形状に配慮されている。
「なんでそこまで?と思いますよね。でも設計士さんに言われて驚きました。下の玄関から上がってくる際に、まずテーブルのその裏面が目に入るんですよ。だからちょっと見栄えよくしておきますねということで、そんなことまで最初から考えて作ってくださることに、感銘を受けました」。
吹き抜けの壁面からキッチンの天井面まで、ヒノキの板張りが続く。板の目地の間隔は大工のこだわりで、ベストな美しさを求めて場所ごとにミリ単位での調整が図られたという。
壁から天井へ回る部分は、角を落としてゆるやかなアールに。ヒノキの板材を1枚1枚丁寧に張って曲線が描かれているさまは、さながら工芸品のような趣だ。
「昔から木工芸が好きなので、毎日家のあちこちを眺めているだけで本当に楽しくて。職人さんの巧みな手仕事の跡を見て、いいなあ、すてきだなあと思っていると、すぐに時間が過ぎてしまいます」。
作り手と住まい手、互いに本気の家づくり
空や庭を眺めながらゆったりと過ごしたいという理想を叶えた設計
長年、家を建てたいと強く思いながらもなかなか状況が整わず、実現まで10年以上も待ったという。
「でも、結果的に今でよかったです。10年以上ずっと家のことを考え続けてきて、イメージの方向性はかなり固まっていたし、その間に家族の生活スタイルも定まってきて、若いころに比べて、自分たちの暮らしにとって本当に必要なものとそうでないものが明確になっていたんです。そんな今だからこそ、最後までブレずに思いを貫くことができたのだと思います」とMさま。
実際、キッチンやトイレなど後で変えられる設備類は既製のものを利用して導線には配慮しながらも、メリハリをつけて有効に予算配分することができた。
家づくりを振り返って、Mさまは語る。
「関わるすべてのスタッフさんが、それぞれに高いプロ意識をもって、私たちの家づくりを本気で考えてくださることに心を打たれました。だからこちらも礼を尽くして、本気で向き合おうという気持ち。なんでも相談して、妥協なく考えて納得して決めたので、後悔することがひとつもありません。
今、生活しながら、家のいろんなところに目を止めては「ここでこんなことを悩んだなあ」「職人さんが一生懸命作ってくださっていたなあ」などと、家づくりの過程をひとつひとつ思い出すんです。そんな時間も含めて、心から満足のいく家ができました」。
風も視線も抜ける気持ちのいいキッチン
精選されたタイルが気分を高めてくれる
見た人の心を動かす美しい桧の板張り
座る人数や位置を制限されない造作テーブル