TOP家づくり物語静かな気配と心地よい広がり

抜け感をつくり、心地よいものだけを見せる

三種類の異なる外壁の質感が、建物の奥行きを感じさせる

田んぼに囲まれた、新しい分譲地の入り口。
周囲に家が建つ中で、自邸に入れば静かな癒しの気配に包まれる。

自然素材を使ったやさしい雰囲気の和モダンスタイルを希望し、『きなりの家』に巡り合ったというSさまご家族。コンセプトハウスとともに、ある見学会で見た家がとても気に入ったという。
「町なかの比較的コンパクトなお宅だったのですが、驚くほど広く、のびのびとして見えたんです。建て方の工夫によってこれほど気持ちのよい空間ができるのかと、心を惹かれました」。

Sさま邸においても、55坪という一般的な分譲地の中で、いかに空間の広がりを感じさせられるかが設計上のポイントとなった。できる限り視線の行き止まりをなくし、見て心地よいものだけを見せるよう、緻密な計算がなされている。

まずなによりも大切にされたのが、リビング・ダイニングからの眺望。南北に長い敷地をいかして駐車スペースを北側に置き、また洗濯の物干し場も西側に回した。
くつろぐ空間から余計なものはなにも見えず、ただ庭を愛で、はるばると風景を眺められる。
「こういうことが、居心地のよさなんですよね」とご夫婦は目を細める。

デッキも庭も、リビングの一部になる

製作 FIX 窓のデザインが、外と内の境界を曖昧に演出する

玄関から、扉を開けてリビングに入った途端、明るい庭へとまっすぐ視線が抜ける。
扉の真正面が一面のガラスになり、その先には新緑を茂らせるモミジの木。これは設計士が意図的に仕掛けた演出だという。

ガラスは床から天井までいっぱいの高さがあり、枠がなくそのまま壁際に突き当たる。室内の床も壁も天井も、ガラスを挟んで外までずっとつながっていき、内外を仕切るものの存在は限りなく消し去られている。
よりいっそう空間の連続を感じられるよう、天井のダウンライトも室内外にわたり等間隔に設置するという念の入れようだ。

開放的なリビングと対照的に、ダイニングはあえてこぢんまりとした空間に。「周りが広すぎないほうが、家族で落ち着いて食卓を囲めますからね」とご主人は話す。
南側は大きなピクチャーウインドウ。正方形に切り取られた庭の景色が、団らんの間にみずみずしい彩りを添える。テーブルと窓下の高さをぴったり合わせるため、先にテーブルを買い求め、それに合わせて窓を設計したという。
東側は全面ガラスでデッキと続き、L字に向き合ったリビングまで見通せる。「デッキや庭まですっかり室内の一部のようで、実際よりずっと広く感じますね」と奥さまも感心した様子を見せる。

食卓回りのこだわりの窓

リビングと大きな開口部

畳スペースはリビングの一角

キッチン収納は大容量を確保

「存在感を消す」デザインの手法

収納、開口部の枠周りを軽快にしたモダンデザイン。

設計士からの提案は一貫してミニマム志向で、とにかくできる限り『存在感を出さない』『生活感を見せない』ことに徹していたという。
家具を置かなくて済むようテレビは壁付けにし、ビデオデッキなどは畳コーナーの段差部分を利用して収納。
また、例えば収納の扉は、壁と同じクロスを側面にまで巻き込み、隠し扉のように壁と同化させた。勝手口はダイニングの目立つところにあるが、そこも乳白色のガラスを入れるなどして壁と自然になじませている。

階段の蹴上げや側面も壁と同じ白色にすることで、視線が止まらず抜け感を得られる。掃除機などのぶつかりを防ぐための幅木はごく細くして、シャープで繊細な印象に仕上げた。

「どれも言われてみないとわからないところですけど、こうしたディテールの積み重ねによって、全体の印象がまったく変わってきます」と、設計担当者。
ご主人も「まさにそう。そうやって自分たちには気づかない部分をリードしてくれるのが、『きなりの家』にお願いして本当によかったと思うところですね」と満足の表情を見せる。

空間の質を下げないコストダウンの工夫

縁側の広がりが、食卓空間を開放的に押し広げてくれる。

最初に提案されたデザインがひと目で気に入ったという外観は、1・2階とも深い軒から斜めに切り込む袖壁が印象的。2階南側の天井をぐっと下げ、全体に低く落ち着いたフォルムを作っている。
玄関は家の表と、裏の駐車場との2方から入れるようにし、目隠しのための縦格子を設置。石積みと植栽を施して情趣あふれるアプローチを設けた。

プランニングは常に予算とのせめぎ合いだったというが、そうしたことをまったく感じさせないほどに、すみずみまで手のかけられた上質な住まいができあがっている。

コストに関しては、なによりも建物の面積を抑えることでベースダウンを図り、あとは差し支えのないところで建具を省いたり、既製品をうまく用いるなどして工夫した。
しかし例えば玄関ドアは既製のものだが、その代わり、表に見える縦格子は天然木を用いてきちんと造作。こちらには既成の見切り材なども使わず、職人が手間ひまをかけて細部まで美しく納めている。「そうやってバランスを取ることで、全体としての質はけっして下がらないようにしています」と設計担当者は話す。

デッキは友人の材木店から材料を仕入れ、ご主人がDIY。コストダウンのためでもあるが、「暑いさなかにがんばって完成させたので、よけいに愛着がわきますね」と笑顔を見せる。

家で過ごす休日は、お子さんと庭に出て遊んだり、友だちを呼んでデッキでお酒を飲んだり。いつなにをしていても、心地よい住まいがやすらぎをもたらしてくれる。

アプローチの石と緑が出迎える

玄関に奥行きの深さを演出

トイレに様々な質感を配置

庭にある、石と苔の演出